お子さんが学校に行けなくなったとき、親として何ができるのか。どうすれば子どもの笑顔を取り戻せるのか――。
そんな不安を抱えている保護者の方々に、今日は私のフリースクールでの実体験をお話ししたいと思います。
一言も話すことができない生徒との出会い
彼がフリースクールに来たとき、私は戸惑いを感じました。
挨拶をしても返事はなく、質問をしても反応が無いか、かろうじて首を僅かに振るかだけ。そんな生徒でした。
場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という症状がありまして、「家では普通に話せるのに、学校や職場などの特定の場面で話せなくなる状態」のことです。
彼も、そんな場面緘黙症を抱えていました。
言葉は交わせないけど、当教室は「マイクラ」を専門にする教室でしたので、言葉がなくてもマイクラの世界でみんなで楽しく遊ぶことができました。

マインクラフトという「居場所」
言葉は発しなくても、マイクラの世界の中では違いました。
キャラクターで感情表現したり、誰かが困っていたら、進んでアイテムを分けてあげたりできる世界なのです。
言葉はなくても、困っている人がいたら助けてあげる。
みんなの危機(ゾンビが攻めてくるなど)の時は矢面に立って戦う。
そんな姿があれば、言葉はなくても伝わるんですね。
次第に彼は、下級生たちの頼れる存在になっていったのです。
「今日のチーム、あの子と一緒だ!やった!」
「ねえ、これどうやるの?教えて!」
彼がいるチームになると喜び、一緒に何かをやりたいと頼りにする。
返ってくる言葉はなくても、そこには確実に「コミュニケーション」が生まれていたのです。
自分で選んだ道
さらに驚いたのは、その後の彼の変化でした。
当教室に来てくれる前まではパソコンに触ったことがなかった彼が、
「自分でパソコンが学べる学校を探し、体験まで行ってきて進学を決めた」
と保護者の方から連絡を頂きました。
フリースクールに来た当初の彼からは想像もできない、主体的な行動でした。
マイクラと、周りに居た仲間たちの存在が、彼の中で何かを変えたのです。
「自分にもできる」という自信。
「認められる」という喜び。
「仲間がいる」という安心感。
そのすべてが、彼の背中を押したのだと思います。
卒業の日に聞いた、あの声
実は、彼が卒業するまで、私と一言も言葉で会話をする機会はありませんでした。
3年間、ずっと沈黙を続けていた彼。
それでも、いつも自分の足で教室に来てくれて、楽しんでくれている。
それだけで十分だと、私は思ったのです。
そして、卒業の日。
最後の最後に、彼は教室の前で、大きな声で言ってくれたのです。
「ありがとうございました!」
初めて聞いた、彼の声。
いつの間にか声変わりしていた、その力強い声。
涙をこらえるのに必死でした。
今でもその声を思い出すだけで、勇気をもらえます。
ゲームは「悪」なのか?
「ゲームばかりして」「勉強しなさい」――そう言いたくなる気持ちは、よく分かります。
でも、マインクラフトは彼にとって、言葉の代わりになり、自信を育む場所になり、未来を見つけるきっかけになりました。
大切なのは、ゲームそのものではなく、「子どもが輝ける場所」があるかどうかなのだと、私は思います。
それが必ずしも学校である必要はありません。
フリースクールでも、習い事でも、オンラインのコミュニティでも。
お子さんが「ここなら自分らしくいられる」「ここなら認めてもらえる」と感じられる場所があれば、必ず成長していきます。
保護者の皆様へ
不登校や場面緘黙症のお子さんを持つ保護者の方々は、毎日が不安との戦いだと思います。
「この子は大丈夫だろうか」
「将来、ちゃんと生きていけるだろうか」
でも、お子さんには必ず、輝く力があります。
ただ、その力を発揮できる「場所」が多くの子たちとは少し違って、まだ見つかっていないだけかもしれません。
焦らず、お子さんのペースを大切にしてください。
そして、お子さんが興味を持つものを、どんな形であれ、否定せずに見守ってあげてください。
その子にとっての幸せとは何か。
それを考えるひとつのきっかけになれれば幸いです。
あの卒業の日に聞いた「ありがとうございました」という声は、きっと、彼が見つけた「自分らしく生きる力の証」だったのだと、私は信じています。

